こんにちは!UI デザイン担当の松野です。
今日は、Sleipnir 3 for Mac で私が大事にしていることについて書いてみます。それは、アドレスバーがないことです。
アドレスバー、いります?
私には以前から考えていた疑問がありました。それは「アドレスバーは誰のためのものだろう」ということです。
というのも、少なくともそれは「今の人々のためではないな」と思っているからです。
ウェブブラウザといわれるアプリケーションには、実に20数年の歴史があります。登場当時、インターネットには今ほど多くのウェブページがあったわけでもなく、Google もなく、人々は決まった URL をアドレスバーに打ち込むことも多かったことでしょう。また、インターネット黎明期にはまだまだコンピュータ技術者などの専門家のためのものでした。
歴史に名を残す偉大なアプリケーションのひとつ「NCSA Mosaic」。
1993年に登場したこのブラウザには、すでに今と同じようなアドレスバーが確認できます。
©Board of Trustees of the University of Illinois.
しかし、それから20年経ち、インターネットは当時では考えられないくらいに広がりのあるものになりました。膨大なページがあり、提供する情報も実用から娯楽まで多様性に満ちています。
そして、それを見る人々も技術者や専門家だけでなく、より一般的な人々にまで広がりました。近所のじいちゃんだってやってます。それに小さい子も。
今では多くの人が、様々なサービスをウェブブラウザを通じて楽しんでいます。
ところが、この途方もない変化に、ひとつ変わることができずに残っているものがあります。それは URL です。
URL って、なに?
コンピュータに詳しい人ならいざ知らず、そうでない普通の人が初めてインターネットに触れるとき、最大の難関は URL だと私は信じて疑いません。
これが何かを知らない人に教えるのはとても困難です。そういう場面に立ち会ったならば「わからなくても大丈夫だから」というのが正しい解答でしょう。
そう、実のところ、URL って知らなくてもウェブページ、見れますよね?
むしろ、この URL の難関を越えて少し理解すると、ちゃんと URL を回避して「検索」や「ブックマーク」を使うようになります。みんなこの移行を経験しているはずです。
このブログ記事の URL です。意味を知っていれば内容を読み取れますが、専門知識を要します。
にもかかわらず、これまでのブラウザには、さも重要そうな感じで文字の羅列を打ち込むための箱が常に鎮座しています。未だにこれの意味をわからずにブラウザを使っている人も実は多いんじゃないでしょうか。ひょっとしたら私もそうかもしれません。
インターネットが誕生した当時ならともかく、この時代に一般の人に対して、通信プロトコルとファイルのフルパスを文字列で晒す/打ち込ませるなんて、よくよく考えると狂気に近いとすら思うんです。言い過ぎですか?
もちろん、URL という「仕様」がインターネットに必要なのは理解しているつもりです。また、ブラウザに URL を確認/編集できる機能が必要なのも間違いありません。しかし、それはユーザーの目に最初に飛び込むような場所にででーんと置かれるようなものではないはずです。
みんな HTML 文書じゃなくてウェブサイトと思ってる
ウェブサイトは、URL よりもっとわかりやすい概念です。多くの人は、ウェブを閲覧するとき、この「ウェブサイト」という単位で捉えて、見たいページを開こうとするのではないでしょうか。私もそうです。あなたもそうではないですか?
ブックマークしたページは大抵トップページだったりしませんか?
これも、サイト単位で捉えている傍証と言えます。
対して URL は、言ってみれば HTML 文書、ファイルとして捉えるための手段です。しかし、これはもともと技術ありきの「仕様」です。
今、多くの人々がウェブブラウズを楽しむこの時代にあっては、ブラウザが「ただの HTML 文書のビューワ」であるのはいいことではありません。
だからアドレスバーはありません
アドレスバーがないことは、一見すると奇妙に見えるかもしれません。けれど、ウェブブラウザがコンピュータ然としたところからもう一歩、人に近いところにある道具になるための大事な進化のひとつと考えています。何らかの形で、みんながそういうブラウザを使える時代になればいいなと思っています。
そういうわけで、Sleipnir 3 for Mac はアドレスバーの在り方を見直して、より実情に即した表現と機能を持たせています。ただし、本当は決してアドレスバーが「ない」わけではなく、提供方法を工夫しているだけです(しかしそれが重要です)。
アドレスは普段は小さく表示します。これは必要最低限の表示に留めて、難しいこと抜きにまずは使えるようにするためです。普通のアドレスバー同様、クリックするとフルサイズのアドレスバーに変身します。もちろんコマンド+L でもできます。
普段の表示はドメインに絞っています。これは、ウェブサイト単位で理解できる情報に絞るためです。また、セキュリティへの配慮でもあります。http:// なんてのも入っていません。https:// のときは錠前アイコンで知らせます。
どのサイトかを確認できることが重要です。
はたして、このページの HTML ファイルの名前までも知りたいでしょうか。
ちなみに、アドレス編集中はブックマーク/履歴/開いているタブを検索できます。意外と多機能です。シンプル=機能がない、ではありません。
キーワードを入力して、候補を表示します。使用感は一般的なアドレスバーに近づけています。
アドレスバーと検索バーを統合しないのは、検索バーの持つ役割を伝えづらくなってしまうことと、アドレスの入力自体に重きを置かない考えからです。しかしこの辺はプラットフォームごとに適したものが検討されているので、Windows 版では統合型が採用されています。
一見すると奇をてらったように思われてしまうかもしれませんが、使ってみると、「意外とこれでよかったんだ」と思ってもらえるのではないでしょうか。アドレスを編集することもたまにはありますが、本当は常に頭上に鎮座していなくても使えるんですよ。
余計なことを考えなくても自由にウェブブラウズできることは、今日のブラウザにとって、これ以上ないリッチな機能と言えるのではないでしょうか。